トヨタの強さの秘密

日本人の知らない日本最大のグローバル企業

  • TPS: トヨタ生産方式(Toyota Production System)
  • TPD: トヨタ流製品開発(Toyota Product Development)

トヨタは、カンバンなどのトヨタ生産方式(TPS)と呼ばれる運用スタイルが有名で、それがトヨタの力の源泉であると一般的に思われているが、実際はTPSよって生み出される価値というのは全体ので5%程度で、そのほとんどの95%がトヨタ流製品開発(TPD)によって生み出されているという話。

TPSは有名すぎて、各社導入しているのが当たり前になっている昨今、そこでは差別化できない。トヨタくらいの生産規模なら別の話かもしれないが、これ以上生産を効率化してもリターンが少ないのだ。

そもそも売れるものを作りつづけていかなければ、改善もしようにもできない。そのためのシステムがTPDである。そのTPDの根幹といえるのが、トヨタで採用している主査制度。主査は本書ではチーフエンジニアと訳されているが、我々のソフトウェア業界で言えば、プロダクトマネージャー(PM)のことであろう。そうゆうわけで本書はPMがどうゆうふうになるべきか参考にすべきところが多い。

主査は製品の社長であり、社長は主査の助っ人である

とあるように、主査は製品(カローラとかプリウスとか)に対して絶対的な権限と責任を持っている。

  1. 市場の情報、顧客、非顧客の情報、競合の情報
  2. 技術の情報(生産技術含)
  3. 原価の情報

主査は上記のことを踏まえて、製品を企画する。

主査の使命は、自分が実現したい製品を作ることである。ライン組織の各部は専門的な仕事をするが、最終的に決定するのは「製品の社長である主査」なのである。

結局、みんなの意見を等しく聞いて総花的なモノを作るのを回避できるようなシステムになっている。それゆえ、できた車は主査の○○○さんの車と、トヨタでは呼ばれているらしい。

そのタレントが発揮できる能力の上限が、最終的に実現できる商品価値の上限なのである。つまり「誰が」担当するかが大事になる。

とあるように、主査がイケてないなら、製品もまたイケてるはずがない。主査はとても重要な存在である。

たとえば、デザイン重視のソアラの主査は、デザイン部門出身の岡田稔弘氏が務めた。その場合、主査のスタッフである主査付には、シャーシやエンジン、足回りなど各分野の技術に強い人材があてがわれる。主査グループとしてトータルで機能させるためである。

すべての分野において完全無欠な主査なんて、そこかしこにいるわけではないので、主査を支える優秀なスタッフが用意できればの話ではあるが、チームとして機能させるのは妥当な判断だと思われる(でも最終的に判断するのは主査)。

トヨタぐらいの規模なら何種類も車種を同時並行で開発でき、ある程度の失敗も許される。しかし、すべての会社がトヨタ級の規模ではない。そうなると、都市全体を企業と見立てるならば、都市の社長は各ベンチャーキャピタル(主査の助っ人)であり、主査は各スタートアップの起業家であり、これがうまくワークしているのがシリコンバレーで、富を生み出していることになる。

主査の要件として、以下のようなことが挙げられる。

  1. 主査は、常に広い知識、見識を学べ。
  2. 主査は、自分自身の方策を持て。
  3. 主査は、大きく、かつ良い調査の網を張れ。
  4. 主査は、良い結果を得るためには全知全能を傾注せよ。
  5. 主査は、物事を繰り返すことを面倒がってはならぬ。
  6. 主査は、自分に対して自信(信念)を持つべし。
  7. 主査は、物事の責任を他人のせいにしてはならぬ。
  8. 主査と主査付き(補佐役)は、同一人格であらねばならぬ。
  9. 主査は、要領よく立ちまわってはならない。
  10. 主査に必要な資質。(中略)要するに総合能力が必要。それは「人格」。

まぁ、こうゆう心構え的なことはもちろんなわけだが、自動車のような複雑高度な製品を作るためのエンジニアリングも当然身につけなければならない。それも、意匠、ボディ、シャーシーなど各分野の技術をすべて身につけて、ちゃんとした主査になるには15~20年はかかるらしい。

プログラマー35歳定年説とか言ってたら、優秀なプロダクトマネージャーになれないなと感じた。

重要なことは、製品の価値と実現手段を一人のアタマの中で把握していことである。

ここが重要だと個人的に感じていて、アナリシス(分析能力)で集めた圧倒的情報量をインプットしまくってシンセス(統合能力)で、よいプロダクトへ昇華させる。つまり、価値を生み出す富の源泉となるものは、結局、一人の人間なんだとということがよく分かる。

その後、売れた車の主査が取締役や社長になってるように、責任・役割に見合うリターンもあるのも良いことだと思う。

Web業界のような新しい業界で『先人から学べ!』が通用できないかと思っていたが、学ぶべきことはたくさんあるなと感じた。願わくば、主査の養成システムや、主査が失敗した時の保険・フォローなども詳しく書いてあるとなお良かった。