理科系の作文技術

木下 是雄

タイトルに『理科系』と書いてあるが、すべてのコミュニケーションに携わる人に読んでもらいたい。本書で扱う<作文技術>の大切さは米国では早くから認知されており、大学の一般教育課程にイングリッシュ・コンポジションというコースがあるほどだ。もし、日本でもこのようなジャパニーズ・コンポジションという単位があるのならば、本書は間違いなく必須テキストに採用されると思う。

たかが作文と思われるだろうが、序章で紹介されている、英国の宰相ウィンストン・チャーチルが政府各部局の長に送ったメモが表す通り、作文の出来不出来が国益に影響すると言ってもいいだろう。

(i)報告書は、要点をそれぞれ短い、歯切れのいいパラグラフにまとめて書け。
(ii)複雑な要因の分析にもとづく報告や、統計にもとづく報告では、要因の分析や統計は付録とせよ。
(iii)正式の報告書でなく見出しだけを並べたメモを用意し、必要に応じて口頭でおぎなったほうがいい場合が多い。
(iv)次のような言い方はやめよう:「次の諸点を心に留めておくことも重要である」、「……を実行する可能性も考慮すべきである」。この種のもってまわった言い廻しは埋草にすぎない。省くか、一語で言い切れ。

思い切って、短い、パッと意味の通じる言い方を使え。くだけすぎた言い方でもかまわない。 私のいうように書いた報告書は、一見、官庁用語をならべ立てた文書とくらべて荒っぽいかもしれない。しかし、時間はうんと節約できるし、真の要点だけを簡潔に述べる訓練は考えを明確にするにも役立つ。―1.1 チャーチルのメモ P.2

本書は昭和56年発行なので、全体を通して堅苦しい文体で読みにくい感じを受けるが、どうしても時間のない人は第7章の事実と意見だけでも読んで欲しい。

仕事をしていて感じるのだが、どうもこの事実と意見を明確に分けて説明できる人が少ないように思う(自分も含めて)。なにかの機能やサービスを追加する際に、なぜこの機能が必要なのか聞くと、結局、全部あなたの意見(感想)ですよね?ってことが多い。データを出してもらえれば分かりやすいのだが、自分の意見を事実として飛躍することもあり混乱を招く。このようなケースに陥らないためにも、すべてのビジネスマンは必読すべき本だと思った。

図書館で借りて読んだけど、これは赤ペン引きまくって手元に置いておく必要があるだろうと思い買ってしまった。