年収は「住むところ」で決まる

雇用とイノベーションの都市経済学

俗っぽいタイトルなのでサクッと読めるかなと購入したが、読んでみたらなかなか骨太な書籍だった。というのも、著者はカリフォルニア大学バークレー校の経済学教授ということで論文チックというか、データがふんだんに盛り込まれている。

これまた俗っぽく結論を言えば、年収をあげたかったらシリコンバレーに住むんだ!という話。現在のシリコンバレーは知識の集積地として、イノベーションをたくさん生み出している。それに伴い、新たに雇用される人が増えたり、イノベーション企業に勤める人はそれに見合う高給料なので、その従業員が地域で消費(還元)する額もまた大きい。ゆえにイノベーション企業以外の企業にも恩恵をもたらしているという。

興味深かったのは、フランスのインターネット関連産業についての研究によれば、WWWが登場して以来、インターネットが生み出した雇用が120万に対して、消滅させた雇用は50万だそうだ。問題は、雇用の消滅が幅広い地域で起きるのに対し、雇用の創出はいくつかの地域に集中していることで、これが実感とのズレの原因なんだと理解した。

イノベーションが経済を牽引するので、国家はイノベーションが生まれやすい都市を計画しなければならないが、それがまた難しい。結局、イケてる企業が集まれば、集積効果でさらにイケてる企業が集まる好循環が生まれ勝手にそうなるわけだけど、鶏が先か、卵が先かに通じるところがある。これを人工的・計画的に狙おうとすると、適切なビッグショットをしなければならない。ビッグショットというのは、いわゆる呼び水的な手法。

例えば、シアトルならマイクロソフト(MS)とアマゾンが幅を利かせる街である。シアトルにMSが引っ越してくる前はシアトルは全米でも有数に廃れた都市だったそうだ。MSが引っ越してからはMSの成長に伴いテッキーな人材を惹きつける魅力的な都市になったそうで、問題はMSのような企業をいかに自分たちの都市に招いてこれるかだが、税金の優遇政策とかあるけど、あんまりうまくいった試しがない(ビル・ゲイツがシアトル出身だからということだけで、特に合理的理由もなく、当時本社のあったアルバカーキから引っ越してきたそうだ)。

シリコンバレーとまでは言わないけども、東京も地方と比べれば知識の集積地だろう。事実、僕も石川から東京の企業へ転職した時は給料上がったし、東京の会社からまた別の東京の会社へ転職することで給料はあがった。多くのIT企業が集まればマッチングの幅も広がるし、企業間同士での知識も伝播しやすい。

一方、シリコンバレーはアメリカの集積地ばかりでなく世界の知識の集積地となっている。博士号を持つ高学歴の移民の受け入れに比較的寛容であったり、仕事の成果に見合う報酬も出すので、世界中から優秀な人材が集まる。優秀な人材は世界中にどこでもいるのだろうけど、1億人の中から優秀な人材が東京に集まるより、60億人の中から優秀な人材がシリコンバレーに集まるのなら、そりゃシリコンバレーに負けるのは当たり前だよな。多様性も違うだろうし、イノベーションが起きやすいだろう。

アメリカは飛び抜けた能力の持ち主に対しては、年功序列もなく速く出世させるし、給料も高くだす。そうゆうわけでアメリカは教育への投資が多くの見返りをもたらす国なので、世界中の俊英たちはアメリカを目指す。これはこれで博士号をもつインド人や中国人技術者に、アメリカ人が非技術職のレストランのウエイターなどで仕える構図が生まれたりする。

まぁ僕は日本の政治家ではないから、日本にシリコンバレーを作ることや、日本の教育制度に頭を巡らせてもしょうがないので、もう少し小さく考えてみてみる。優秀な人材が集まる企業とはなんだろうと。

Googleの採用方針的なもので、Aクラスの人材はAクラスの人材を連れてくる、Bクラスの人材はCクラスの人材を連れてくると聞いたことがある。だから採用には手を抜いてはいけないし、Aクラスの人間を是が非でも取らなければ、企業は緩やかに死に向かうだろう。ましてや、スタートアップの人材は企業規模に比べて個が目立つので創業時にスター・エンジニアを採用するのは適切なビッグショットと言える。

もう少しブレイクダウンして、例えば、僕は前職のフロントエンドエンジニアたちのSlackグループに入っているをが、やはりそこの人たちは優秀なので、プライベートなStackOverflow感覚で質問したらすぐに答えが返ってきたり、そこにいる友達のOSSがバズってHTML5 Weeklyとかに載った聞いたりすると、すごく刺激を受けるかけがえのない場となっている。これも小さな知識の集積の場と言えるだろう。

まぁ、話は長くなったけど、それだけいろいろ考えさせらた本だ。本書の最後でも引用されているイスラエル人起業家のヤニフ・ペンサドンの言葉を本記事でも引用して終わろう。

確かに、世界中のどこにいても、インターネットを使えばなんでもできるが、結局のところ大事なのは人間だ。私達の仕事の環境と社会の基本的骨格はグローバル化とローカル化という、21世紀の二つの潮流によって根本から様変わりしようとしている。

結局、人とのつながりが最も大事だし、適切な時に適切な場所にいなければならない。