遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生

解題:美学としてのグリッドシステム

少し前だが上記のセミナーに参加した。デザイン系、しかもWeb系でないセミナーは久しぶりだったが、講演者の白井さんはムサ美の教授ということもあり、とてもわかり易い大学の講義のような充実した2時間だった。

講演タイトルのグリッドシステムのみならず、活版印刷の歴史からは、各種有名フォントの成り立ち・有名デザイナーの紹介なども丁寧に解説してくれて、さしずめデザイン史・総おさらいといった感じだった。

グリッドシステムと言えば、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンを語らずよりほかない。講演でも本書の紹介があった。いわゆるスイス派の重鎮、スイス派は国際タイポグラフィー様式ともよばれ、幾何学的なグラフィックにストイックで簡潔なタイポグラフィが印象的だ。

今見ると、すこし味気ないグラフィックにも見えてしまうが、大学生のときにデザイン史を勉強していた流れの中で見ると、当時コンピューターもAdobe Illustratorもない時代でこうゆうの表現が出てきたの驚くべきことだ。言い換えれば、今のグラフィックデザインは50年前以上に出てきたものをベースに作られているのが理解できる。

そうゆうわけで、大学生のときから好きだったヨゼフ・ミューラー=ブロックマンの名前をセミナーで久しぶりに聞いて、本書を購入してみたのであった。本書の構成としては、まずブロックマンの自伝と作品(カラー多数)が紹介され、後半に佐賀一郎氏の解説がある。

ブロックマンの作品は好きだが、ブロックマン自体のことはよく知らなかったので、とても興味深かった。決して、順風満帆のキャリアではなかったブロックマンだが、18歳でチューリッヒ応用美術学校で、なんとか学ぶことを許され、エルトン・ケラー、アルフレート・ヴィリマンの両氏に師事し、卒業後は自分のキャリアの危機感から下記のような指針を決める。

  1. ひとりであること。結局、すべては自分の気力や思考力、自己批判にかかっている。
  2. 教養を身につけること。自分の生きている世界や社会、建築、新しく生まれつつある諸芸術・演劇・音楽・科学・研究に興味をもつこと。原則として自分の知らないすべてのことに興味をもつこと
  3. 周囲の環境を批判的に心に留めること。自分の気に入らないことすべてをより良い可能性に置き換えるよう試みること。
  4. 20世紀を意識すること。芸術・社会・科学の領域で、今世紀に生み出されたものを心に留めること。また、手本とすべき人びとが達成した価値あるものを認識し、尊重すること。
  5. 職業や人間関係の失望を受け入れ、その原因を探ること。客観的な自己批判の姿勢を保つこと。自己批判こそが、良いときも悪いときも最良の友人である。
  6. 自分の仕事に向けられた賛辞や成果が、客観的に見て正当なものか冷静に検証すること。自分の成果を手本とすべき人々の業績と比較して捉えること。
  7. どのような批判も肯定的に受け止めること。そうすれば以前にはわからなかった間違いに気づくことができる。いわれのない批判もまた有益である。他人の思考のありようを教えてくれるから。

指針の通り、30歳までの間はデッサンや絵画に費やし、他の学問も貪欲に吸収していった。その後の成功であるので、下積みというのは大事だなと思った(小並感)。まさに「デザイナーとしてどう生きるのか」という問いに答えてくれるようだ。

あとは、後年のブロックマンは日本人の吉川静子さんと結婚していたというのも初めて知った。しかも、同じようにグラフィックデザインをしており、最近展覧会があったのも後で知った。参加したかった…

ブロックマン以外にも、白井さんのセミナーでは往年のデザイナーの名前がでてきたので、またデザイン史でも勉強してもみようと思う。