ナイキシューズ革命

“厚底”が世界にかけた魔法

書影から分かると思うが、NIKEシューズと言ってもエアジョーダンやエアマックスなどのスニーカーのことは本書には書いていない。「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4% フライニット」(最新モデルはナイキ ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%)と呼ばれる、厚底のランニングシューズの話である。

それまでのランニングシューズは軽くて薄いソールが定番だったのが、軽さを維持しつつ、クッショニング性の向上、さらには中にカーボンプレートを仕込むことで反発力をあるという、一見、矛盾する機能性がこの厚底というインパクトのあるランニングシューズに同居している。結果、このシューズを履けばランニングエコノミーが4%向上するということで、この名前になったとか。

本書では、ヴェイパーフライというNIKEのシューズに着目しつつ、それを着用した大迫傑・設楽悠太選手など日本男子マラソン界についても解説している。今月開催されたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)は、記憶に残る名勝負と言っていいほど、白熱した大会だった。その中でも印象的だったのは、ほとんどの選手がピンクのヴェイパーフライネクストを履いていたことだ。これはNIKEのマーケ戦略で新作が出る度に色を揃えてくる。

一時は、ヴェイパーフライはキプチョゲ(世界記録保持者)や大迫傑(NIKE所属)などの一部の選手しか履けず、その選手たちが記録を更新していくので、ドーピングシューズと言われたたが、市販モデルが発売され、一般市民ランナーも買えるようになった。また、ヴェイパーフライに使われているズームXの材料は航空産業でも使われている希少なもので、量産が難しかったが、現在のモデルは普通に購入することができる(高いが…)。

2018年に今まで16年破られてなかった日本記録が二度も更新された。その足には、ヴェイパーフライがあった。もちろん、選手の才能と努力の結果でもあるが、確実に男子マラソン界が盛り上がってきているのは体感できるので、その裏側を知る上でマストな一冊だろう。